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中国外交研究の再構築-外交史と現代外交研究間の断絶の克服と長期的視野の獲得-

日本学術振興会科学研究費基盤B 研究プロジェクト(平成16―19年度)

(代表者:川島 真 北海道大学大学院法学研究科助教授)
shin@juris.hokudai.ac.jp

●研究組織者

【研究代表者】
川島 真(35) 北海道大学・大学院法学研究科・助教授 アジア政治外交史 博士(文学) 統括/外交(史)研究データベース作成/外交史〈民国〉
【研究分担者】
天児 慧(56) 早稲田大学・アジア太平洋研究センター・教授 現代中国政治研究 社会学博士 現代中国外交〈共産党の対外政策〉
茂木敏夫(44) 東京女子大学・現代文化学部・助教授 中国外交思想史 博士(文学) 外交史〈清代外交体制〉
岡本隆司(37) 京都府立大学・文学部・助教授 中国外交史 博士(文学) 外交史〈中国外交政策〉
青山瑠妙 (36) 早稲田大学・教育学部・助教授 現代中国外交研究 博士(法学) 現代中国外交〈政策決定〉・早大COEとの連絡
平野 聡(33) 東京大学・大学院法学政治学研究科・助教授 アジア政治外交史 博士(法学) 外交史・現代中国外交〈民俗問題と外交〉

●海外から本研究をサポートすることが期待される研究者

唐 啓華(台湾政治大学歴史系、教授)
茅 海建(北京大学・歴史系・教授)
王 建朗(中国社会科学院・近代史研究所・研究員)

●研究目的

①研究目的
中国が国際社会に深く関わると、中国外交・外交史研究の必要性が高まり、それ応じて研究も大いに進展してきた。だが、依然克服すべき課題も多い。最も重要な課題は、本来ならば緊密な連携と協力があるべき外交史研究と現代外交研究が断絶状態にあり、この両分野の架橋と対話、そして共通点、相違点などの論点整理、研究枠組みの再構成が求められているということである。政策決定、党と国家、外交官論、外交思想あるいは「伝統外交」や外交文化論など多くの面で再検討と再構成が求められている。これなくして、19世紀以来の中国外交を俯瞰し、長期的な視野に立って中国外交の現状や今後を見据えることは困難である。そこで、本研究では、断絶の原因であった二点を克服し、新たな共同研究を推進する。その第1は社会科学的アプローチと歴史学という学問分野的断絶である。これを外交史研究と現代外交研究の共同研究グループを日本、中国、台湾の代表的研究者により形成する。第二の課題は49年を分岐点とする、外交を語る従来のディスコースである。それを史資料状況や先行研究のありかたを両者が双方向的に総点検することで克服する。そして、共同研究の場から、長期的視野にたった新たな枠組みに基づく実証的な研究を提示することで、新たな中国外交研究の成果を世界に発信し、当該分野の世界的な研究拠点となるネットワークの基盤を本研究で形成していくことを目指す。

②当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色·独創的な点及び予想される結果と意義

【特色・独創性】

(1)双方向的に問題を討論し、情報を共有する「場」を設定する。これは世界的に見ても特徴的である。
(2)史料情報の共有化と研究成果のレビューにより、それぞれの先行研究、史資料的前提、論点の形成過程、背景など、個々の領域を形成してきた根源的な部分を批判的に検討し、方法論的な再構成をおこなう点。
(3)共産党・国民党によって創成されてきた外交史・外交をめぐるディスコースを検討し、他方で1949年前後における組織、人事、政策などにおける連続性・断続性についての論点を整理するなど、現代外交・外交史に共通の課題を克服、同時に両者を架橋する論点を提示する点。
(4)20世紀(19世紀後半以降)の中国外交史についての見通しを示し、豊富な史料と再構成された先行研究の下にハイレヴェルな実証研究を展開し、今後の共同研究に発展させる。
(5)史料情報や先行研究、あるいは研究成果について、必要な範囲でデータベース化し、本研究のHPにて公開、中国外交・外交史研究のための基盤整備もおこなう。

【予想される成果・意義】

(1)新たな研究上の可能性の開拓、閉塞状況の突破が期待できる。 (2)議論をおこなうに際し、従来は歴史が現状を、現状が歴史をイメージの中で具象化してきた面があるが、互いにブレイン・ストーミングすることで、20世紀全体、あるいは近現代全体の視点から議論の枠組みを想定することができるようになること。(3)枠組みの調整だけでなく、史料・資料面での情報交換をおこないながら、より精緻で実証的な研究をおこない、それを世界に発信することで、この分野におけるひとつの「標準」を示すこと。(4)研究推進過程で形成される研究者ネットワーク、また蓄積される学術情報を土台として、日本の中国外交研究を世界における一つの拠点として形成していく足がかりにすること。

③国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ
本研究計画は、世界の中国研究界の中で問題とされてきた、歴史研究と現代研究の間の分断状況を発展的に克服し、長期的な視野になった研究を目指す点で独創的である。昨今、1949年を越境的に捉え、連続論の観点から歴史を再構成しようとする試みであるが、それらは必ずしも歴史研究と現代研究が共同でおこなっているわけではなく、両者はは「ねじれ」、出あわない状態にあるという印象である。だが、本研究と基本的に方向性を同じくしたり、関連する研究計画も内外に存在する。国内では、申請者もメンバーである早大COEプログラム「現代アジア学の創生」における研究班「中国外交(史)研究会(清朝から現代に至る中国の外交に関して総合的な観点から研究を行う)」が、本計画と方向性を同じくしている。しかし当該研究班は研究費などに限界もあり活動が制限されており、その方向性を全面展開し、研究基盤を形成するに到っていない。そこで本計画では、当該研究班の中心メンバーを加え、積極的に当該研究班と協力連携する。他方、台湾では「近代中国外交史網站(HP)」設立計画が中央研究院近代史研究所にあり、世界の中国外交史関係の史料、研究状況を集約し、それを公開しようとしている。申請者はその日本側代表委員であるが、本研究計画とこの当該プロジェクトは連携することを想定しており、その意味でその代表者を本計画のメンバーとして加えている。欧米や中国を見据えても、その必要性についてはしばしば指摘されているものの、本計画のような方向性は打ち出されていない。

●研究計画・方法

研究究代表者·研究分担者の相互関係(役割分担状況)(研究計画・方法)
〈概要〉
本研究は、従来、中国外交史研究をおこなってきており、史料/内外の研究者、研究機関、アーカイヴとのネットワークを有する川島と代表とし、その下に外交史班を茂木とともに形成する。他方、現代外交班を早稲田大学の天児とする。この2班が本研究の中核となる。両班は、川島・青山・天児が参加する早稲田大学のCOEプログラム「現代アジア学の創生」における研究班「中国外交(史)研究会」をひとつの架橋とする。そのうえで両班が以下の活動をおこなっていく。
(1) 外交史料(文書・公刊物)情報の共有、先行研究の総点検(リストおよびレヴュー)をまずおこなう。また、『籌辧夷務始末』、『清季外交史料』から『中華民国重要史料初編』や共産党の外交関連文献に到る、外交史・外交関連の基本史料について、その成立背景などについても総点検をおこなう。
(2) また、特に日本における中国外交・外交史関係史料(外務省記録含む)、文献などの情報を積極的に海外に伝える努力をする。ウェブ上での積極的な公開などを考えている。
(3) 次いで、20世紀中国外交、近現代中国外交を長期的な観点で捉える上での大きな枠組みについて議論するとともに、主権論(川島)、政策決定過程(青山)、外交官論、党と国家(天児)、外交思想(茂木)、民族問題(平野)などについて、早大研究班と連携しながら、論点を整理する。
(4) そうした従来の外交をめぐる言説の基礎となってきた、共産党・国民党によって創生されてきた外交史、外交をめぐる位置付けの過程、いわば言説史とでも言うべき部分を整理し、従来基本史資料とされてきたもの、重要とされてきた事項についての整理をおこない、相対化をはかる。
以上の作業は日本国内でおこなうが、この間に隔月で研究分担者による会議を実施する。(2)(3)については早大研究班との連携も想定する
(5)上記の作業は日本でおこなうが、台湾の「中国近代外交史研究網站」に収集された情報を共有するかたちで利用し、こちらからも情報提供する。また、2005年夏に上海で開催される「北洋外交史研究国際会議」においても、その会議の主催者である唐・王・茅川島が特に(1)から(3)の(中途の)成果について検討する。

このように、川島を中心として日常的に海外共同研究者と連絡をとりつつ、 (3)を終了した段階で中国・台湾を訪問し具体的な経緯、成果を説明する。そのうえで、札幌にて「中国外交・外交史研究の回顧と展望」国際ワークショップを、海外共同研究者(唐・王・茅)を招聘して開催する。そして、史資料状況、議論の大枠/個別論点、外交をめぐる言説について議論をおこなった後、20世紀中国外交、近現代中国外交を長期的な観点で捉える上での大きな枠組みについて議論するとともに、政策決定過程、外交官論、党と国家、外交思想、外交文化(伝統外交論含む)などについて共通の見解をとりまとめる。そして、それを前提として、それぞれが個人で、また関係している研究グループやプロジェクトを通じて具体的に実現可能なこと、及び連携すべきことなどについて検討し、総合的な方針とする。この総合方針が本研究を進める上での「憲法」的な役割を果たす。
このほか、(1)から(4)の成果、および(5)で打ち出された方向性については、随時ウェブ上で公開する。【以上初年度】

● 従来の研究成果

Ⅰ.従来受けた本研究関連の科学研究費(申請者本人が代表者のものに限る)
(1)95~96年度 文部省科学研究費(特別研究員奨励金)
「1920-30 年代の中華民国外交 档案史料に依拠して」(180万円)
修士論文『ワシントン会議と中国外交』の成果をふまえ、より1920‐30年代全般にわたる外交档案を網羅的に閲覧、実証論文を発表。史料面では、特に台湾で新公開档案を内外に先駆けて閲覧。
(2)97年度 文部省科学研究費(特別研究員奨励金)
「中華民国北京政府外交の諸相の解明:档案史料に依拠して」(150万円)
中国の地方外交について、各地方档案館や図書館にて档案・資料収集。外交をめぐる中央・地方関係を解明。研究成果①の第四部として発表、従来の中華民国「分裂」論について疑問を呈する。
(3)99年度 文部省科学研究費(奨励研究)
(00年度は海外に長期滞在のため科研費を放棄せざるをえなかった)
「20世紀前半中国外交の構造的解明~中国外交文書にもとづく実証研究からモデル提示まで」(220万円)
上記の(1)(2)をふまえ、30年代や清末を意識したかたちで、1910‐20年代の中国外交を総合的に検討。中華民国前期外交史を「近代性」「文明国化」の論点で読みなおし、そこに伝統性、中央・地方論を加える。他方現代の中国外交についても議論を開始する。成果は⑬-(23)として公表。
(4)01~02年度 日本学術振興会科学研究費(若手研究(A))
「近現代中国外交の構造的解明~中国外交档案に依拠した仮説提示の試み」(250万円)
(3)をふまえそれを博士論文『中華民国前期外交史研究』(2000年3月提出)として提出。さらにその精度を高めるべく、①『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会)の公刊へ向けた取り纏め作業をおこなう。他方で、外交史研究環境整備の必要性(アーカイブ所在情報の公開、研究グループ拠点の形成)、現代中国外交との関連性の模索(「中国政治外交史研究」としての位置付け)を痛感。個別的成果は⑤-⑫として公表

Ⅱ.従来受けた科学研究費以外の研究助成法人・民間企業等からの研究費
(申請者本人が代表者のものに限る)
(5)94年度 東京大学文学部・布施奨学金
「1920-30 年代の中華民国外交史研究」(30万円)
台湾中央研究院近代史研究所にて外交档案(ワシントン会議部分)閲覧。修士論文『北京政府の外交政策と中国統一問題:1921年華盛頓会議への参加をめぐって』にまとめ、この成果を95年の国際政治学会などで報告。
(6)95年度 笹川科学協会研究助成金
「1920-30年代の中華民国外交と東アジアを繞る国際関係」(40万円)
南京第二歴史档案館での外交档案調査。台湾の档案群との比較、見取り図作成を企図。研究成果(37)として公刊。南京の外交行政関連档案を利用して外交官試験研究を開始、成果は①の第一部として公表。
(7)96~97年度 松下国際財団研究助成「1920-30年代中国外交システムの解明」(60万円)
地方外交および国連外交を調査し中国外交史に新たな局面を切り開くことを志向した。成果を⑲⑳などとして公刊、これらが①の第四部となる。
(8)97~98年度 トヨタ財団(個人研究)
「20世紀前半の中国外交政策決定過程に関する総合的研究」(170万円)
中国外交史を整理する「軸」を得ることが課題に。自らの研究を「近代化」「朝貢体制との連続」「軍閥割拠下での外交」という三点から整理。この成果が(3)に継承され、博士論文および①の骨子となる。
(9)98~00年度 学術研究野村基金「中国から見たワシントン体制」(50万円)
中国外交史の成果を日本外交史の成果と絡める試み。成果⑦⑧⑲⑳などとして公刊。
(10)99~01年度 日中友好会館・歴史研究助成金
「中華民国北京政府の山東問題解決プログラム」(230万円)
日本外交史や国際政治史の大トピックである山東問題を中国から捉える問題提起をする。①の第2部を構成。
(11)02年度 トヨタ財団・出版助成費「中国近代外交の形成」(200万円)
(研究成果①への助成)
(12)02年度 日中友好会館・歴史研究助成金・出版助成費
「中国近代外交の形成」(150万円)(同上)
(13)02年度~サントリー文化財団
「植民地近代を考える」(200万円、研究代表者)(03年も継続助成、100万円)
共同研究。研究分担者は駒込武ほか8名。植民地化することによる不平等条約体制からの離脱、租界問題について担当。成果公表準備中。
(14)03年度~学術研究野村基金「戦後東アジア外交史の再検討」(40万円)
台湾と日本にて公開された新文書をもとに、1950‐60年代の日台関係を解明することを計画。成果は日本経済評論社より出版予定。

研究代表者の業績概要

【中国外交史研究関連業績】(特に但し書きが無い場合、すべて単著)
(1)川島真『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、近刊、総700頁)
(2)川島真「帝国、主権、そして大国-近150年における「中国」の形成」
(『比較文明』19号、近刊)
(3)川島真「従天朝到中国-清末外交文書中『天朝』和『中国』的使用」(沈中埼訳)
(復旦大学歴史系など編『近代中国的国家形象与国家認同』〈近代中国研究集刊1〉、上海古籍出版社、2003年所収、P.265‐280)
(4)川島真「江戸末期の対中使節への新視角-総理衙門档案からの問い」
(『中国研究月報』663号、2003年5月、P.1-14)
(5)川島真「「従廃除不平等条約史看『外交史』的空間」
(『近代史学会通訊』第16期、中国近代史学会、2002年12月、P.11-14)
(6)川島真「朝鮮半島の中国租界撤廃をめぐる中日交渉」
(横山宏章・久保亨・川島真編著『周辺から見た20世紀中国-日・韓・台・港・中の対話-』中国書店、2002年所収、P.91‐106)
(7)川島真「『南満洲』の解釈可能性-対華二一箇条交渉における議論の中で」
(『アジア遊学』44号、2002年9月、P.55-68)
(8)川島真「第一次大戦後の国際政治と中華民国北京政府外交-石井ランシング協定および日英同盟への対応をめぐって」
(比較史・比較歴史教育研究会編『帝国主義の時代と現在』未来社、2002年、P.56-68)
(9)川島真「外交と地域-東アジア外交史からの「地域」像」
(『地域研究論集』第4巻第1号、、P.21-37、2002年3月)
(10)川島真「清末における留学生『監督』行政」
(『中国人日本留学史研究の現段階』御茶の水書房、2002年、所収、P.53-72)
(11)川島真「『顧維鈞回憶録』的史料価値初探-従哥倫比亜大学収蔵、未収入回憶録之档案内容来探討」
(復旦大学歴史系学系など編(金光躍主編)『顧維鈞与中国外交』上海古籍出版社、2001年、P.460-473)
(12)川島真「中国外交界にとっての辛亥革命-組織・人事・政策に関する一考察-」
(『近きに在りて』39号、2001年8月、P.29-43)
(13)川島真「北洋政府外交档案上的商会面貌:「外交與商会」的初歩探討」
(張国剛主編『中国社会歴史評論』第三巻、2001年6月、P.322‐329)
(14)川島真「戦後台湾外交の出発点-中華民国としての対日戦後処理外交」
(『北大法学論集』51―4号、2000年11月、P.280‐293)
(15)川島真「中華民国外交史からみた現代中国-民国前期外交史からの問い-」
(『北大法学論集』51―4号、2000年11月、P.210‐225)
(16)川島真「中国における万国公法の受容と適用・再考」
(『東アジア近代史』3号、2000年3月、P.35‐55)
(17)奥田安弘・川島真ほか『共同研究・中国戦後補償-歴史・法・裁判』
(明石書店、2000年)
(18)川島真「激動の中の中国外交-民国北京政府の外交官僚たち」
(五百旗頭真・下斗米伸夫編『20世紀世界の誕生-両大戦間の巨人たち』情報文化研究所、星雲社発行、2000年所収、P.138-152)
(19)川島真「ワシントン会議における中華民国全権代表団形成過程」
(『北大法学論集』、50-2号、1999年7月、P.1-41)
(20)川島真「1921年ワシントン会議参加をめぐる中国統一論議」
(『史潮』45号、1999年5月、P.115-136)
(21)川島真「中国における万国公法の受容と適用」
(『東アジア近代史』2号、1999年、P.8-26)
(22)川島真「関東大震災と中国外交-北京政府外交部の対応を中心に」
(『中国現代史研究』4号、1999年3月、P.27-44)
(23)川島真「北京政府外交部の対非列強外交」
(中央大学人文科学研究所編『民国前期中国と東アジアの変動』中央大学出版部、1999年、P.99-123)

【中国外交史関連史料紹介・目録作成】
(24)川島真「加速する台湾における文書公開-中国外交档案の保存公開に関する現況とともに」
(『Intelligence』3号、2003年10月、P.63-72)
(25)別枝行夫・貴志俊彦・川島真編 『台湾・国史館典蔵行政院賠償委員会档案目録』
(平成13~16年度日本学術振興会科学研究費補助金、研究成果中間報告書、2002年6月)

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