川島 真
2003年3月5日から19日まで台湾に滞在した。久しぶりに档案館通いをした。台湾の档案地図は、台湾化の中で依然流動的であり、また国家档案法・档案管理局の出現によって、一種の制度化とそれにともなう混乱が生じている。他方、「数位化」計画も進行し、档案のデジタル化が急速に進行中である。
■国史館
国史館は、台湾総督府文書などを管理下におさめ、張炎憲館長の指導の下、台湾化を進行させている。そして、日本統治時代の台北州・台南州の文書を受け入れ、一気に台湾研究の文書センターになるかと思われたが、この方面の档案の公開はまだ進んでいない。総督府档案をめぐるゴタゴタも一応の決着をみつつあるが、2004年の選挙の結果次第という面もありまだまだわからない。また、国家档案法の制定、档案管理局の出現は、国史館の位置を微妙なものとしている。すなわち、国家档案法において国史館は国家の档案を受け入れる場として明確に位置づけられたわけではなく、あくまでも国史編纂機関であるということが確認されたからである。档案、特に国家の機要档案は档案管理局に移管されることになりはじめており、すでに228事件、白色テロ、921地震の档案などが集められ、公開されている。こうした中にあって、最大の档案所蔵機関として国史館がどのような位置を占めていくのか、注目されるところであろう。
さて、今回のターゲットは外交档案である。現在のところ、以下のような档案目録がカード以外にある。
172-1上下 外交部档案
172-2 外交部档案(移管時期1997年7月15日)
内容的には人事、秘書など総務関係が多い。時期は1960-80年代。
172-3上 外交部档案(移管時期2000年3月3日)
内容は、非州司のアフリカ関係充実。北美司には、「台郷会」の新聞切り抜きなど。秘書処、会計処。日本もある。天龍走私など多数。また電務処には日本とのものもあり。僑務のところには「長崎地区僑民異動」など。
172-5 外交部档案(移管時期2002年10月14日)
内容は、多岐にわたる。2325巻。
特にこの172-5が興味深い。さっそく、駐日本大使館聯席会報、駐日大使館工作報告、対日和約委員会(人事関係中心)などを閲覧したが、戦後の日台関係の基礎史料の宝庫である。
日台関係で言えば、1総統府档案縮影紀録表の亜東関係協会線題報9ファイルや、275ファイル 財政部国有財産局档案目録(内容的には、台湾省公産管理処档案、台湾省公産公物整理委員会档案、財政部国庫署档案)などがある。
■党史館
相変わらず人員が少なくサービスに限界があるが、「党」がオープンにしているアーカイブだと考えれば、むしろ有難がるべきであろう。ここでは、謝南光らの関連した戦前期の大陸における「台湾」言説について見た。特に特殊档案(特17-21)に台湾接収前の台湾関連の档案が多く、興味深い。
なお、1945年以降の档案、たとえば文化工作委員会などの档案は、国民党の立案した「三十年原則」からすれば公開されてしかるべきであるが、いまのところ「陽明書屋」にとどめおかれているとのことであった。予算と人員と場所が確保されないと、「下山」できないのであろうか。
■中央研究院近代史研究所
ここは台湾の档案館の最前線であり、いまは数位化計画にまい進している。以前に比べて管理が厳しくなってきているが、これも「先進国水準」に対応させるためだろう。HPからここに入ると、実は数多くの档案が移管されてきていることがうかがえる。未整理のものもあるが、正式に要請すれば見られる道も開かれている。今回の訪問でのビックニュースは二つ。第一は、清代の駐ソウル総領事館・公使館が外交部から移管され、来年には公開されるということである。清代の在外公館の档案は、すでに公開されているワシントン、ブラッセルについで三つ目となる。昨今話題となっている、清末の対朝鮮外交、特に朝鮮側と総領事館、公使館のやりとりがわかることが期待される。
第二は、「外交部保存之逾期档案目録」が閲覧室におかれるようになったことである。これは外交部に保存されていて、30年原則によって公開することになっている档案目録である。従来、外交部にいかないと見られなかった目録がおもむろに置いてあるのに驚愕した。これによって、台湾における外交档案地図はほぼ完全に描くことができるようになった。中央研究院近代史研究所、国史館、そして外交部档案資訊処の档案のありようがわかるのである。
このほか、日賠会(中華民国駐日代表団日本賠償及帰還物資接収委員会)の档案を興味深く見ることができた。戦後になって台湾民主国の旗が皇居の中の博物館にあるのではないかと疑った台湾人が日本政府に返還を要請したりした記録など、実に興味深い。
32-00 278 帰還台湾民主国国旗案(複写)
32-00 277 帰還北京人化石案
32-00 290 江蘇国学図書館
32-00 291 帰還北平図書館
32-00 766 中華民国よりの掠奪文化財目録
32-00 1 盟総駐日代表系統表
32-00 2 本団規則
32-00 3 盟総政令往来文件
32-00 6 総巻:外交部
中央研究院近代史研究所は、数位化とともに特に台湾の経済発展を示す「経済档案」の収集を急いでいる。ひとつの特色をもった档案館になることだろう。
■そのほか
このほか、台湾省議会档案が中央研究院台湾史研究所に移管されたとのことであった。これについても档案整理に時間がかかるだろうが、一二年で公開予定という。省文献委員会は国史館分館になったというのに、省議会が档案を国史館でなく台湾史研究所に移管するあたり、まだまだ台湾の档案行政が流動的であることの証であろう。(了)