川島 真
対象 陳士伯 局長
王崇賢 企画組長
張鴻銘 档案典蔵組長
許啓義 応用服務組長
場所 档案管理局 http://www.archives.gov.tw
台北市伊通街59巷10号
筆者は、2002年12月26日、午後3時から2時間ほど档案管理局局長にインタビューする機会を得た(東華大学張力教授、中央研究院近代史研究所荘樹華編審の紹介)。档案管理局は、国家档案法の成立を受けて設立された機関であり、その去就は学界においても注目されている。特に、国史館や中央研究院近代史研究所との役割分担については、依然調整中とされており、その結果は世界の中国史・台湾史研究者に大きな影響を与える。また、台湾の学界からは、この档案管理局は三等機関だということ(行政院の下部機関である研考会=研究発展考核委員会の更に下の機関であるということ)や権限が曖昧だとする批判があった。だが、筆者は11月に台湾の研究者から、行政院の研考会の幹部が、現在のところ档案管理局は二二八事件など主な事件に関する档案を収集し管理しているが、今後は総統府や軍事方面の档案をはじめ、国民党が手をつけられなかった档案群をみな、この档案管理局に移していく予定で、法的な部分は行政院自身がサポートして補うとの消息が伝えられた。そして、12月26日のインタビュー直前の昼食の際には、この档案管理局がさまざまな問題を抱えており、特に歴史のことを全く解さない集団が、勝手に档案を処理しているなどとした批判が相次いだ。果たして実態はどのようになっているのか。外国人研究者として、档案の収集、保存、管理、公開がスムースにいくことを願うという立場からインタビューをおこなってみた。
■陳士伯 局長の話
1.設備について
1階400坪。3階で1200坪。新たに建設したわけではない。もともと国防部の施設。1960年代は弾薬庫であった。設計に際してのコンセプトは以下のとおり。
(1)「衙門」ではなく民間の公司のような雰囲気
民衆の視点に即すること、家に帰るのと同じ感覚で来ることができるような場。こうすることで利用者にやさしい環境を整備することが可能に。また人々からの問合せに応じるセクションも設置している。
(→これには成功しているように思う。快適な職場環境のように見える。問合せに応じるセクションが広くないという印象を受けたが、そうした場を設けているだけで画期的)
(2)働きやすい場
ここに勤務する職員にとっても働きやすい環境を。それは機能、オフィス環境、福利厚生、自然など、全体的に調和が取れるようにする。
(3)施工スケジュール
社会的信用を得られるように、竣工したら直ちに機能できるようにした。2002年1月1日に国家档案法が公布されたが、それにあわせて直ちに仕事ができるように。
2.経緯と組織
(1)経緯
2000年3月1日 档案管理局籌備処設立
2001年11月23日 档案管理局正式成立
2002年1月1日 国家档案法公布、施行
(2)組織
職員100名。高度な人材。行政管理系の人材。試験合格者。
ポイントは、人材の専門の多元化、そして高学歴。また、年齢が若く、男女比もバランスがとれている。歴史学関係者は逆に少ない。档案内容が多岐にわたることから「歴史学」に拘泥しないほうがいいという判断。
部署としては、企画組、档案典蔵組、応用服務組、資訊組、会計組など。
(→この点が歴史学界から多いに非難されている。中央研究院も国史館も歴史研究者が档案管理に関わってきた経緯が有るから、こうした批判が出てくることも理解できる。だが、档案管理という観点から見て、世界的な趨勢は档案管理局の主張に近い)
(3)予算
五億元程度。いまのところ足りている。事業としてはまだ初期段階。
2008年までは大丈夫。
(→この点は、次政権でどうなるか不明)
3.档案管理局のおこなうこと
(1)档案の接受
档案管理局は、各官庁の永久保存档案、すなわち機要档案(=国家档案)を受け入れる。
清代、日本統治時代など全てを含める。
そのほかの機関档案は各官庁保存の判断の下に置かれる。そうした意味で、この档案管理局は総合的な档案を受け入れる場だということになる。
そうした意味で、国史館・故宮博物院・中央研究院にはこうした権限は無く、あくまでも档案の「消費者」に過ぎない。
(→「消費者」は衝撃的である。今後、各機関と調整がおこなわれることだろう)
(2)全国展開
台北に外交・経済の档案を扱う「主体館」を設置し、中部・南部・東部にそれぞれ分館を設けることも検討されている。但し、地方の档案は地方で管轄すべきというのが原則。
(3)教育機能
社会的な教育機能、学校からの参観など、幅広い教育活動に寄与する。こうすることで社会の档案への認知を高めることができる。特に、小学生から档案への認識を深めていくための努力をする。そして、大学の档案系の学生を受け入れたりすることも想定している。
(4)権限・判断
档案管理局が、中央官庁の機要档案を一元的に管理する。三等機関という問題点が有ることは承知しているが、これらは上部機関を通じて各官庁に連絡することなどで解決できると考えている。また、何を棄てるのかどうかということの判断については、それぞれの「テーマ」に即しておこなう(この点についての説明はとても歯切れが悪かった)。なお、歴史研究者は「研究」をおこなうのが中心であり、档案管理とは必ずしも同じところにいないが、様々な審査に加わっていただく予定。
(→全くの未知数のように思える)
(5)活動
具体的には資訊化、数位化を進めていく。各档案の目録も数位化していく予定。
「亜洲」への文書館ネットワーキングも想定している。
上記の教育機能のほか、社会(企業・産業など)の要請にも応えていく。
この档案管理局は、「档案管理人」。档案は、政策決定過程、行政行為、また以前におこなわれたこと(歴史)、そして理想を体現するものとしてある。こうしたことについて、政府記録を保存、保管し、それを情報化して社会に提供していく。そして、これらの管理については、基本的に集中管理をおこない、必要に応じて分担する。
現在は、まず二二八事件档案について各機関および中央研究院、国史館などから档案を集めて、目録化、情報化を進めている。档案じたいも保管している。この次に美麗島事件、そのあとが921地震をおこなっていく。
(6)図書館
台湾で唯一の档案(館)学の図書館を設けている。教育拠点化。
(→書架にして10本程度)
以上のように、档案管理局は、これまでの台湾に於ける档案行政の根幹をかえるほどの将来像を描いている。インタビューをしていると、档案管理のうえでの判断基準など曖昧な部分もあったが、いまのところ自信をもって業務に取り組んでいるように見えた。心配される、三等機関問題、法的根拠問題は現実政治の中で解決されるのかもしれない。また、現政権が健在なうちはこの方針はゆらがないであろうが、その後どうなるのかは不明な点が多い。もし、機要档案集中管理が途中で途切れたなら、档案行政は一層混乱することになるだろう。また、档案管理局の主たる利用者である歴史研究者との交流が如何に保たれるのかも今後の課題であると思う。