日時:2006年2月1日(水)15:30~
場所:新棟W302教室
題目:最近の研究動向について(近現代中国の自由・権利問題等を中心に)
発表者:中村 元哉氏(日本学術振興会特別研究員)
参加記
日本学術振興会特別研究員である中村元哉氏が、別の研究プロジェクトの会議で来札された機会を利用して、座談会の形式でお話をいただくことになった。最初に、柳が中村氏のご著書である『戦後中国の憲政実施と言論の自由 1945-49』(東京大学出版会、2004年8月)について簡単に紹介を行い、本書のポイントとして以下の5点を指摘した。1、国民政府内部に存在した言論の自由化への傾向を明らかにし、従来、反動的との一面的な評価が強かった国民政府史研究の根本的な見直しを提示したこと。2、中国内部の動向だけでなく、言論・報道自由化という国際的潮流との関連を明らかにしたこと。3、一定の限界はあったにせよ、1947年ごろまではかなり自由で活発な言論空間が存在していたことを明らかにしたこと。4、活発化した言論界の背景に、メディアの市場化の流れも存在していたことを指摘したこと。5、档案史料を駆使し、国民政府内部の動向を明らかにしたこと。
これに対し、中村氏からは、当時の政策と世論との間の関係をもう少し検討すべきであったこと、また国民党内のいわゆる自由主義派や、地域差の問題、そして国民党―共産党―第三勢力という従来の単純な図式をいかに打破していくか、などが今後検討すべき課題として残っているというお話があった。また、川島先生から、なぜ「言論の自由」という切り口で研究を行なったか、という質問が出され、すなわち、本書は民主、自由といった問題を検討するというよりは、メディア史・言論空間史とみなされ、それが本書をめぐる位置づけを混乱させているのではないかという指摘がなされた。さらに、中村氏が近年研究を進めている著作権の問題と絡んで、当時の「自由」というものをどうとらえるか、自由を法治、憲政といったものにつなげていく傾向と、一切の統制を嫌い自律的な活動空間を確保しようとする傾向、すなわち、制度化された自由と制度化されない自由という二つの潮流をどうとらえるか、言論統制の方法と言論空間のあり方という二つの問題をめぐる「自由」の問題に関して民国期、特にこの時期の特徴をどう位置づけたらよいのか、などについて活発な議論が行なわれた。筆者にとっても、専門が近いこともあり、非常に刺激的で参考となることの多い有意義な研究会であった。
(記:北大法学研究科博士課程 柳亮輔)