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第2回アジア政治論質問・回答

第2回アジア政治論質問・回答
川島 真

◆【授業の方法について】

(1)黒板が薄暗くて微妙に見えません。もう少し大きく書いて欲しい。(3年)
(2)話が早すぎてついていけないときがある。内容をもっと初歩的に。(3年)
(3)今、現在、何について話しているのか、がわかりづらい。(4年)
(4)声が少し聞きづらかった。特に語尾。(4年)
(5)延長は止めて欲しい。(3年)
(6)それぞれの分野での参考文献一覧を配ってほしい。(3年)

  ⇒ こういった御指摘はたいへん助かります。今回の講義は少し焦ってしまったかもしれません。    
    (1)黒板については、大きく書くことを心がけます。
    (2)そうですね。話が速すぎましたね。次回からゆっくり話すようにします。内容的には、これで
     もやさしくしているつもりです。注意しますが、新書などを読んで見てください。
    (3)今何を…というのは、ひとつには話の速度ですが、いま一つには話の仕方が問題なんでしょうね。話題を変えるときとか、終えるときに区切りをしっかりつけるということが必要ということでしょう。この点も気をつけてみます。
    (4)それから、声の部分は次週からきちんとマイクを調達しますから大丈夫と思います。
    (5)なるべく止めているのですが、そうですね。少し前に終るように心がけます。
    (6)それはそのとおりですね。いつも作ろうと思いながら、「五月雨式」に毎回の授業で紹介しているのが実情です。授業が終わるまでに実現したいと思います。中国外交史の文献については小生のHPで公開しています。

【台湾問題】

 台湾問題について、授業では「現状況では中国と台湾の統一はありえない」とのことであったが、その根拠は?またなぜ中国はどうしても台湾の独立を認めないのか。そして、かつて国際社会は中華民国(台湾)のほうを中国であると認めていたのに、それを変更したのはどのような事情からか。なお、こうしたことについての参考文献を紹介して欲しい。(3年)

 
 ⇒ 台湾問題全般については、『アジア遊学』<台湾特集号>(勉誠出版、2003年)を見ていただければと思います。また、岩波新書、中公新書にそれぞれ『台湾』がありますから、そうしたものを見てみましょう。そのほか、東京大学の若林正丈先生の著作を読んでみるのもいいかと思います。さて、両岸の統一がありえないとする最大の根拠は、その統一の内容、方法について合意が得られていない、得られる見込みがないからです。台湾の民意は、統一派が全体の10%未満、独立派も同じく10%未満、現状維持が大多数です。台湾側では、「台湾化」(中華民国から台湾自身に帰すること)が急速に進んでいるので統一に同意することはまずありませんし、「民主化」している以上、国民の意思を無視することはできません。また中国側については、「武力解放」を放棄してはいないものの、「武力」が台湾を上回らないということ、特にアメリカの影響下にある台湾を解放することは武力から考えて不可能に近いこと、また実際に戦争を遂行するだけの予算なども無いこと、そして何よりも中国にとっていまは戦争をするよりも国内建設にまい進すべき時期で、そのために台湾経済が必要であることなどがあります。遠い将来、共産党政権が統治スタイルを変更し、沿岸部の経済レベルが台湾を上回り、アメリカの影響力がさがったりすると、「ゆるやかな統一」がありえるかもしれません。
    中国が台湾独立を認めないのは、ひとつには「外国や非共産党勢力に占領された中国を解放」するということを存立基盤としてきたから、またひとつには「台湾独立」を認めれば「中国」のアイデンティティが揺らぎ、他地の独立を招く必要があるからだと考えられます。

台湾経済の悪化は、生産拠点の中国への移行が大きな原因と聞いています。台湾経済の命運は中国に当面かかっているのでは?     (不明)

⇒現在、100万人の台湾人が中国大陸で働いていると言われています。台湾のコンピュータ産業も基本的に生産拠点を広東に移しています。「産業の空洞化」は当然進み、雇用の問題が生じています。こうした意味で中国経済の動向が台湾経済に大きな影響を与えることは間違いありません。しかし、台湾経済の問題は必ずしも中国との問題だけではないようです。台湾では、現在の台湾の経済不況は日本と同じであるという指摘があります。不良債権処理などの問題のことです。こうした点については、佐藤 幸人編『新興民主主義国の経済・社会政策』(アジア経済研究所、2001年)にある、佐藤幸人「第1章 台湾の民主化と金融システム―不良債権問題に焦点を当てて―」を参照下さい。 

【中国の共産主義政権の行方】

 
 共産主義体制が何時崩壊するのかという議論がずっとなされているが、胡錦濤体 
 制になって、これは加速されるのかどうか。胡錦濤の抱負などを聞くと「共産党
 体制維持」と言っているが、実際は逆では?社会主義化から緩やかに資本主義に
 移行するのではないか。(3年女子)

⇒授業で申し上げたとおり、中国共産党は市場経済化を推進する「資本主義エージェント」となってきています。経済を資本主義「的」にしているのは共産党政権自身です。これは中国における政権が「豊かさ」を体現し、「民衆を食べさせて行くこと」が必要であることを示します。問題は社会主義化から資本主義へという「発展段階」「移行論」ではないでしょう。要するに共産党政権が、中国人にとって役立つ、あるいは何かしらの資源になる政権であるかどうかということです。中国が資本主義的になれば共産党の支配が無くなるということでもありませんし、社会主義・共産主義を目指すという国是が無くなるというわけでもありません。こうした「言葉」はすでに実状に合わせた「解釈」の中にあり、「××主義は本来◎◎なはず」といった論理的な批判に意味が無くなっています。
  他方、研究者の中には、「豊かさ」が実現していくことによって「市民」がうまれ、彼等がやがて「政治的な自由」を求めて「市民社会」が生まれ、そこから「共産党一党独裁」が崩れて行くのではないかという見方もありましたが、現在ではそう簡単ではないと言われています。
   授業で述べたように、中国の現在の政治形態は「経済発展しながらも民主化をともなわない」という方向の中にあります。共産党政権は、軍(暴力)・教育・宣伝を掌握し、政権基盤は比較的安泰です。少なくとも、共産党にかわるオールタナティブはありません。そうした意味で、現状で共産党政権の崩壊は予想できません。しかし、文字通りの共産主義体制ということであれば、既に「崩壊」あるいは「変容」を開始しているのではないでしょうか。共産党政権自身が、自らの政権維持を絶対条件にしながら、中国社会および国際情勢の動きにあわせて変容させているのです。

【中国の国家建設】

 
広大な国土で多くの民族を抱える中国において民族の「中国人」という意識は、具体的にどうなのか。ナショナリズムの言説によって彼らの統一は実現できるのか。
(修士1年)

  
⇒確かにそうですね。中国には、国民として「中国人」という概念があり、民族概念として「中華民族」という言葉があります。少数民族と言われている人の中で、「漢化」(漢民族の生活習慣を受け入れること)した人々は「中国人」とか「中華民族」を受け入れていますが、たとえばウイグル人などは決して「中国人」「中華民族」は受け入れないでしょう。ウイグル独立運動などもこうしたアイデンティティを基盤としています。胡錦濤総書記はナショナリズムを強調していますが、これはアイデンティティを「中国人」「中華民族」に収斂させようとする試みであるといえますが、これは同時に「強国」主義の始まりでもあります。「強い中国」そして「強い中国人」といった具合ですので、「中国人でいること」に利点をもたせようとしています。この効果がどのほどかわかりませんが、ナショナリズムが強まれば強まるほど、反発としての民族ナショナリズムも強まっていくでしょう。

中国の都市計画と国土開発はどのようになっているのですか。(不明)

⇒ずいぶんと大きなお話ですね。まずは中国の建設部のHPで覗いてみてください。
 http://www.cin.gov.cn/
 ここには具体的なことがたくさん書いてあります。マクロなプランは党中央および国家で、個別の都市建設は都市の城市(郷)委員会でというのがルールです。最近の国土開発で有名なのは西部大開発です。西部大開発は、豊かになった沿岸部の資金などを発展の遅れた内陸に回していき、均衡をとらせようとするものです。

  国家主席と首相の抱負、「三つの代表」それぞれの内容が抽象的。要するに何が違う?

  国家主席と首相の違いは?

⇒元首・首相クラスの発言は全て抽象的ですが、そのちょっとした表現の変化に莫大な予算の移動や人事異動、方針転換が含意されます。これは日本も同じです。無味乾燥に見えても、語句の変化に注意する必要があるわけです。特に「三つの代表」は生産力、精神性、階級の突破という点で意義がありますが、胡錦濤の談話は、やはりナショナリズム、愛国心を強調していることに特徴がありましょう。経済発展=豊かさの実現、価値観の創出・秩序の担い手、ナショナリズムの中核としての共産党政権像が浮かび上がってきていると思います。
   それから、国家主席は大統領などに対応する国家元首。首相は総理大臣。総書記は共産党のトップ。胡錦濤を紹介するときに、胡錦濤国家主席というか、胡錦濤総書記というかという問題はありますが、現在では胡錦濤国家主席と呼ぶのが通常ではないでしょうか。

鄧小平の先富論だが、これによれば誰が最初に豊かになるのか。よく聞き取れなかった。(3年)

 
⇒早口になっていたかもしれません。沿岸部が念頭に置かれています。

中国では湾岸部に人口や産業が極端に集中しているとのことだったが、これだけ局
所的にモノが集中した場合、中国の生活・産業廃棄物の処理システムに相当の負荷
がかかると思うが、実際どうなっているのか。例えば中国からの黄砂はこの北海道ま
でやってくる。同じように沿岸部の工場煤煙や発電に使用した化石燃料の廃棄物が
偏西風に乗ってこちらまでやって来ていると思われる。中国の経済発展とともに、こち
らの環境に悪影響が及ぼしていないか不安になる。そして環境対策がされていない
場合、日本など東に位置する国が抗議したとしても、「環境対策しています、問題あり
ません」と、またもや中国政府の公式見解が出ただけで終わってしまうのだろうか。

⇒今年は黄砂は少ないですね。おっしゃるとおり、産業廃棄物、生活廃棄物の処理について、中国は後進国です。実質垂れ流し状態に近いところもあります。中国での環境汚染は確かに深刻です。しかし、環境問題対策に中国が熱心に取り組んでいることもまた確かです。緑化運動や北京市周辺での大気汚染対策は一定の成果を挙げています。環境問題は「地域」の問題ですから、たとえば黄砂のような目に見える問題は、解決が可能でしょう。しかし、そのほかについては主権侵害的にとられてしまうかもしれません。しかし日本としても環境センターなどをつくって(各地の環境状況を測定できるシステム)をODAでつくるなどして枠組みづくりにつとめています。なお、京都会議など国際会議における中国の立場は、一貫して経済発展途上の国の利益を確保する方向にあります。

資料の図10で、1960年のところの死亡率が急増しているのが特徴的。またこの部分を分岐として出生率の低下も見られる。この点の説明が欲しい。(3年男子)

 ⇒表や資料についての説明が不充分でした。この時期、出生率が急低下し、死亡率が30%にまで急増しています。この結果、自然増加率もマイナスに転じています。人口がこれほどまでに減少したのは、解放後の中国ではありません。では、なぜこのような変化が生じたのでしょう。一般的に指摘されているのは、(1)大規模な自然災害、(2)1958年から毛沢東によって進められた大躍進政策の誤り(食糧生産体制の崩壊)、(3)農業生産に関する過誤報告による、食糧の過剰取り立て、(4)ソ連からの援助打ちきり、などが挙げられています。四川、安徽、河南、山東、湖南、貴州での被害が大きかったとされ、およそ2000万人弱が非正常死したとされています。中国の人口問題については、少し古くなりましたが、若林敬子『中国 人口超大国のゆくえ』(岩波新書、1994年)が参考になります。

図11のグラフから、一人っ子政策がおこなわれていることはわかるが、中国政府が
内陸・農村部まで把握しているとは思えない。農村部では隠れて子供を産んだりして
いるのではないか。(4年)

一人っ子政策で二番目以降は登録しないことがあるというが、そうした子供はどうする
のか。(3年)

中国で「子供がさらわれることがある」と聞いているが・・・(3年)

⇒そうですね。確かに、「黒生子」という「未登録子」はいますね。一人っ子政策の下では二人目がいたりするとさまざまな優遇措置がなくなってしまうので、登録しないということです。そうした子供たちは、小学校にもあがれず、医療サービスも受けられませんから、最底辺の労働力になったり、人身売買の対象になることも少なくありません。しかし、こうした廉価な労働力が中国経済を一面で支えていることも事実です。また、一人っ子政策について言っておくと、農村部や少数民族地区にはさまざまな優遇措置があり、二人以上産んでも問題にならないような状態になっています(たとえば婿養子をとったら二人まで大丈夫)。また共産党政権が農村部まで把握しているかという点については、「相当把握している」と答えることになると思います。党組織は末端にまでいきわたっていますし、それを基点に支配のネットワークが形成されていたのです。特に配給制度があるときには、そうした支配・統治のネットワークが末端にまで入り込んでいました。
    「子供さらい」は中国ではよくあることであると思われます。子供の人身販売は確かに「ある」と言われていますが、中国当局も認める社会問題にまではなっていないかもしれません。しかし、最近では、童養媳と言う、女の子を子供のうちにもらってきて家庭労働者にしながら、大きくなったら息子の嫁にするといった習慣が復活し、社会問題になっています。ここにも貧富の差の拡大による影響が見られます。

レジュメの図8でアジア諸国の乳児死亡率の推移で単位を%とすると、100%を超えてしまっているのはどうしてか。(3年)
   
 ⇒ごめんなさい。これもきちんと説明していませんでしたね。乳児死亡率というのは、生存出生数1000人のうち満一歳以内で死亡する乳幼児数を指します。 

 「自治区」はどのような仕組みで政治がなされているのか。またその地域にも再配分がなされているのか。(3年)

  
 ⇒漢族支配の強化のために利用されている、と見る向きが強いですけれども、最低でも漢民族と半々で自治区中央の権力があります。だいたいトップは少数民族側になります。しかし、「党」の権力と、中央との関係は漢族が握っています。無論、分配はありますが、この分配こそ漢族の支配の根源です。自治区については、政治のところで詳細にお話します。

【日本型華夷主義】  

日本政治史の講義で「日本型華夷秩序」を習ったのですが、これは前回の日本版オリエンタリズムと密接な関係があるのではないか。(3年)

⇒確かに関係していますが、時期的に少しずれますね。日本型華夷秩序は江戸時代、それを明治以降になってこの華夷秩序が「近代」「文明」といった衣装を纏いながら再編する中で形成されていくるのが「日本型オリエンタリズム」ということになると思います。
  質問票には「日本型華夷秩序は、日本を「華」、他を「夷」として峻別し、「夷」との関係を自らを起点にハイアラーキカルに編成することによってできあがった秩序像だということで、これは江戸時代には朝鮮・琉球使節を遇するありかた、近代には大陸への正当根拠、大義として用いられた」とあります。だいたいこの通りでいいのだと思います。あとは以下の諸点に注意ください。
(1) 開港場を限定して、対外貿易を王権が独占するありかたは16世紀以来、東南アジアでは多く見られた(海禁)。従って、「鎖国」は当時の東アジア・東南アジアで広汎に見られた管理貿易の一形態として見るのが妥当である。
(2)「華夷」秩序を用いて国際社会を整理するという方法も、決して日本に限定された話ではない。中国をはじめ多くの国がこのモデルで秩序形成を果たした。朝鮮も同様。自らを最上位に置く秩序を有している者どうしの「外交」は難しい。中国への朝貢はおこなっても、日本よりは絶対に上と考える(朝鮮)。しかし日本も朝鮮より上と思っている。この間の関係を対馬の宗氏が調整する。
(3) 江戸末になると、新たなネットワーキングが始まり、このような「自分が一番」という体制が維持できなくなる。これは対西洋諸国に対して、ということだけではなくて、対アジア諸国でも困難になる。(⇒「アジアからの衝撃」論)日本は、いち早く「近代」「文明」を吸収し、東アジアの「華」の位置を獲得しようとする。そこで西洋のオリエンタリズムを日本が吸収。
(4) しかし、ここでは通信、情報の発達、関係の緊密化によって、それぞれが「華」として並存するということは難しくなる。ここに争いの種が生まれて来る。

【日中関係の諸問題】

 
 減点主義の影響かもしれないが、日本の政府開発援助(ODA)についてあまりい
 い報告を聞くことがありません。原因は何なのですか。(4年)

 ODAって何?(3年)

⇒小生のODAへの見方は、http://www.juris.hokudai.ac.jp/~shin/08/4index.htmlを参照ください。また外務省の公的見解は、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index.htmlにあります。
 対中ODAの場合、主たる批判は
(1) ODAが共産党支配維持の道具になっている
(2) ODAを利用しておこなう道路建設や空港建設は中国が軍事的脅威になるのを助けている
(3) 中国人は日本のODAを賠償と考えていて、まったく感謝していない
(4) 中国に毎年2000億円も国税を費やして意味があるのか
 などですね。古森義久さんなどが旗手となって批判を強めています。 これについては、授業でお話します。

【用語・概念】

 近代性と近代化がよくわからなかった。(3年)  

 
⇒ 近代性=modernityは、「近代」が具備している性質それじたいのこと。制度、法、軍隊、学校、国語、衛生そして清潔さといった概念。近代化=modernizatoinはそうした近代を目指すこと。NHKブックスに桜井哲夫さんの『近代の意味』という本が参考になります。

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