第12回アジア政治論質問・回答
川島 真
◆【授業の方法について】
◆【第12回目の授業内容】
疑問に思ったのですが中国共産党員の学歴の構成についてです。共産党の構成員に知識層が増えたことと党員の高学歴化の関係のお話をされていましたが、党員の高学歴化には、中国国民全体の高学歴化の方が影響しているのではないでしょうか。確かに中国国民全体で大卒者は1987年時点で数パーセントらしいです。しかし、建国当時の1949年も、学歴が大卒程度という中国国民は、ほとんどいなかったと思うのです。(データが見つからないので断定できませんが、当時の状況から考えて、0.何パセーントよりずっと少ないと思うのですが)どう考えたらよいのでしょうか。
(学部三年)
⇒大状況としては確かにそうしたことは言えますね。しかし、社会全体の大卒者の増加率より、党内のそれのほうが大きいのです(ここで数字を挙げられませんが)。中国共産党自身が「労農」に基盤を置きつつも急速に大学卒集団化しているということは、「知識人」、「企業家」との関係に微妙な影を落とします。共産党が労農政党であると同時に大衆政党であるならば、大衆の変容に合わせて調整をしていく必要が共産党にはあるということでしょう。これは、「共産党が政治を指導する」という方向性と対になる大切なファクターです。
◆【そのほか】
講義と離れてしまいますが、中国政府は「法輪功」をどのような位置付けで扱っているのでしょうか。そしてこれから国内でどのように扱っていこうとしているのでしょうか。(学部3年)
⇒中国では、法輪功のことを宗教上「邪教」と位置付けています。「正邪」というのは、当然政府・体制側が決めた発想です。次ぎに、政治的、社会的には、反体制・反革命的という位置付けが与えられます(反革命=革命政権である現政権に反するもの)。御存知のように、憲法第36条で信教の自由は認められています。しかし、マルクス主義は無神論が前提。最終的には宗教は消滅するという論理にたっています。また、チベット問題や新疆のムスリムの民族運動などから、宗教は敏感なものという認識があります。ただ、仏教協会などをはじめ、多くの宗教団体は政府の公認を受け、国家の管理の下で活動をしています。特に南方では、経済活動の活発化に伴い、民間信仰が再び活気を取り戻していますし、都市化に伴う当然の社会現象としてカルト的な宗教、新興宗教が生じる可能性に満ちています。法輪功が「邪教」とされたのは、宗教団体として「公認」されなかったことを不服として、99年に北京の中南海を取り囲んだため、中国政府は直ちに邪教取締りの規定をつくって、それを法輪功に適用、撲滅運動を開始しました。その後も中国では徹底的な法輪功批判が展開され、約5万人が摘発されるとともに、裁判で「思想改造が必要」とされると、遼寧省などに置かれた思想改造基地において「思想改造」が施され、それでも「改造」されない者は精神病院に入れられています(中国政府は95%以上を撲滅したと公表)。しかし、海外では各地で法輪功の活動は依然として続けられ、国際社会の一部からは中国の法輪功への厳格な取締りは人権侵害ではないかと言われることがあります。しかし、2002年4月、国連人権委員会で、中国政府代表団の王暁翔特別顧問が「法輪功のマインドコントロールにより修練者やその家族の基本的人権が侵害されている」とし、中国政府による邪教組織「法輪功」の取り締まりは「人権保護の必然」との立場を強調しています。 …因みに義和団事件100周年にあたる2000年から2001年には、義和団の記憶と法輪功が交錯して、シンポジウムなどが全国レベルでは開かれませんでした。天安門事件の後、五四運動の扱いが難しくなったのと同じですね。
⇒法律的な問題に就いては鈴木賢ほか『現代中国法入門』[第三版](有斐閣、2003年、88~89頁)参照。