2003年度のゼミは、戦後東アジアの国際政治史についての昨今の成果を輪読し、それをベースに昨今公開された外務省記録を読み解いていった。学部と大学院の共同ゼミでは、基礎学力の習得と研究への道案内の双方を含み込む必要があったので、このような方法をとった。当然、議論になかなか加わらない学部生もおり、また他方で物足りない顔をする大学院生もいたが、それぞれが何かしらのものを吸収し、表現し、相互交流もおこなえたものと思っている。また、本ゼミは留学生も多数参加しており、ひとつの歴史的事象に対する多様な観点も共有できたのではないかと思う。他方、このゼミでは、折に触れて歴史的事象と現状の関係などにも言及した。歴史的観点から現状を見るということも大切だからである。
このゼミを終えるにあたり、2004年冬休みに課題を(単位を取得する)学生たちに与えた。課題は三つあり、そこから一つを選ぶこととした。第一・二は、ちょうど発足一年を迎える二つの中国と韓国の政権について、一年間の施政評価をおこなうこと。第三は、間もなく総統選挙を迎える台湾につき陳水扁政権の四年間を振り返りながら、次の選挙を考えるということ、であった。学生たちはそれぞれ新聞やインターネット、そして図書・雑誌から情報をまとめ、課題に取り組んだ。中国の胡錦涛体制については、やはりSARSについての印象が強かったようである。韓国については、ノムヒョン政権のおこなった政策が像を結ばないうちに破綻した様に批判的な視線が向けられている。台湾については、やはり両岸関係への言及が目立った。それぞれが相応に情報を収集、消化し、バランスのある評価をしていたが、歴史的なコンテキストは十分には汲み取れない感が残る。ゼミでの学習とはなかなか結びつかなかったようである。また日本がどのようにその政権と関わるのかという視点も十分には読み取れなかった。そうした点も残念である。だが、文章を書いて、それが残るようにしておくということは、自分にとっても、後輩たちにとっても、教員にとってもプラスになると思う。
東アジアは、これから膨大で多様な問題を多国間、二国間、また多様な主体の間で、解決し、時には決裂し、そうした中で生身の関係を作り上げていく時期である。信頼構築できる部分もあれば、逆に反発しあう部分もあるだろう。しかし、それが戦争状態をおえ、友好の時代を経て、訪れる健康な関係のあり方だと考えている。そうした意味では、他者を受け入れ、また自己を説明する力を身につけ、さらに自他の関係の積み重ねを知ること、それが必要になっていくのだろう。このゼミ論集は、それへの道程に位置づけられるであろうか。それは執筆者それぞれが判断して欲しい。
本ゼミ論集に寄稿してくれた学生諸君、そして原稿のとりまとめ、編集作業に尽力し、またゼミ中も常に細部にわたって配慮してくれたTAの柳亮輔君(博士課程)に感謝したい。なお、本論集の刊行にあたっては、北海道大学法学部基金学生活動助成費から助成を得たことを申し添えたい。
2004年8月
川島 真
(ゼミ論集「あとがき」より抜粋)
<ゼミ論集目次>
「はじめに」 柳 亮輔 3
一、中国・胡錦涛体制の一年
1. 近藤 崇顕 (修士課程1年) 「胡錦濤政権の評価」 4
2. 斉藤 良介 (学部3年) 「胡錦涛体制の一年」 11
3. 佐野 洋平 (修士課程1年) 「胡政権発足1年の評価-経済格差問題を足掛りとして-」 15
4. 次田 亜美 (学部3年) 「中国・胡錦涛体制の一年」 20
5. 畢 若男 (交換留学生) 「胡體制周年評論」 24
6. 渡部 直子 (学部4年) 「胡錦濤体制始動から一年 その目標と実態」 29
二、韓国・盧武鉉政権の一年
1. 新井 俊毅 (学部3年) 「盧武鉉政権に対する考察」 35
2. Sanyarat Meesuwan (研究生) “President Roh Moo-hyun: Is his engagement policy toward North Korea a success up until now?” 40
3. 志村 甲太郎 (学部3年) 「盧武鉉政権の1年」 61
4. 松下 智子 (学部4年) 「韓国盧武鉉政権発足1年/経済政策」 66
三、台湾・陳水扁政権と総統選挙
1. 椎名 結実 (学部3年) 「2004年台湾総統選挙の争点」 71
2. 本田 貴信 (学部3年) 「台湾総統選挙の争点についての分析」 77
「あとがき」 川島 真 82